本のそばにはいいことがあり、本のそばにはいい出会いがあった──
この世には書かざる得ない文章がある。この世には出さざる得ない本がある。書かなければ次の一歩が踏み出せない。新たな人生を迎えられない。取次、出版社、出版システム会社と本のそばに寄り添って生きてきた著者が、自身のささやかな人生振り返り、その中の句読点を綴る随筆集。
四六判変型並製 144ページ
[目次]
まえがき 2
振り返れば、壊れていなかったことがありません。 6
伊野尾さんに会いたくなった日のこと 16
困ったもんです。いらんことは優しさでもあるから。 25
なんで書けなかったのか。 29
ひとり社員の喜びと悲しみ 35
俺じゃなくていいじゃん! と思うまでのこと 43
北陸は時間の流れが違いました。 54
彼女がくれた20GBのiPod 67
まっとうなことをまっとうに 79
長めのあとがき 93
まだ終わらない 114
[はじめに]
吾輩は渡辺沈没である。本名は渡辺佑一である。まだ沈没はしていない。
沈没という名前がどこで生まれたかは、とんと見当がつく。何でも京都の薄暗い酒場で、四人の男がゲラゲラと笑っていたことだけは記憶している。
50歳を目前にして、私はダメな人間なのであった。毎晩どうしても飲み歩いてしまうのだ。しかも週末には競馬もやらずにはおれないのだ。
しかし私も何者かになりたい、という想いがないわけではない。いや、以前は何者かだったと思えたときもあったのだ。出版業界の片隅で働きはじめて四半世紀、私はいつから何者でなくなったのか? そもそも本当に何者かだったのか?
ところで酒場にいた四人の男は、「4B」と名乗っている。本の近くで働き、本の話をしていたある日、「渡辺も何かを書くべきだ」という話になった。ふざけたような筆名も書名も、私の50歳の誕生日を原稿締切日とすることも、そのときに決まった。
もしこれを書き終えることができなければ、私は本当に何者でもないただのダメ人間となり、その人生はどうやら沈没してしまうようであった。ゲラゲラと笑うその裏で、その実、震える思いがした。
かくして吾輩は、渡辺沈没を自分の名前と極めることにしたのである。
※注 本書は時折競馬の話題が出ますが、競馬エッセイではありません。
*版元HPより