おたがいに見た夢を交換していた姉の麦と弟の太郎は、戦時下の令嬢あやめと出会い、やがて一つの深い場所へと流れ込む。夢と現実、愛と暴力の境界を越え、芥川賞作家が8年ぶりに放つ圧倒的な傑作長編。
8年ぶり、待望の長編小説。
人類が繰りかえしてきた厄災が、たった一人の男の子の夢に流れ込む──。
子供の頃から、おたがいに見た夢を交換していた姉の麦と弟の太郎。眠りのなかで同じ海辺を歩き、夢のなかで何度も出会ってきた二人は、大人になり、麦は東京の出版社で働き、太郎は弘前の病院で医師として暮らしている。
離れて暮らすようになっても続いていた二人の夢は、やがて太平洋戦争下の大磯へとつながっていく。そこで現れるのは、音楽学校を出ながら戦争の時代に閉じ込められた令嬢・あやめ。
現代の東京と弘前、戦時下の大磯と平塚。夢とうつつ、現在と過去が重なり合うなかで、麦、太郎、あやめの記憶と欲望は、しだいにひとつの深い場所へ流れ込んでいく。
麦が、あやめが、そして太郎が見ているのは、誰の、何の夢なのか──。
夢と記憶、時間の不思議な重なりを描いてきた朝吹真理子が、自身のファミリー・ヒストリーを初めて創作の足がかりに、戦争と暴力、そして赦しの問題へと踏み込む。
これまでの朝吹作品のイメージをくつがえす力強い筆致で、暴力は滑稽さへと反転し、ユーモアの極地において悲惨さが浮かびあがる。夢うつつのなかでさまざまな人物の声が重なり合う、壮大な形而上学小説。
*版元HPより