【アーカイブ配信】「故郷喪失者たちの文学」(登壇者:小川公代、河野真太郎)
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「近代においては、私たちはみな多かれ少なかれ故郷喪失者なのだという認識が、最終的には重要になるだろう」
河野真太郎さんの新刊『この自由な世界と私たちの帰る場所』の序文にあるこの言葉に出会ったとき、ハッとしました。自分はたしかに故郷喪失者かもしれないと思ったのです。
本書の冒頭で河野さんは生い立ちを振り返り、「私は故郷から、学歴メリトクラシーのはしごを昇ると同時に空間的にも精神的にも自らを切り離す以外の選択肢を持つことができなかった」とご自身の故郷喪失について述べられています。
そして河野さんの記述を読んでいて思い浮かべたのは、小川公代さんの『群像』での連載「翔ぶ女たち」でした。小川さんも連載をご自身の故郷喪失の話から始められています。そこでは「子供ながらに、英語を使う仕事につけなければ、結婚するしかないと思い込むほどの閉塞感」が告白されており、当時の「グローバル」圧の強さに驚き、また家父長制的な権力が顕在化され、故郷との距離感におけるジェンダーギャップを痛切に感じさせるものでした。
お二人の経験に共通するのは、故郷からの脱出に新自由主義が解放的に機能したということです。河野さんと小川さんはお二人とも1970年代の生まれで、1980年代に本格化する新自由主義が顔を見せはじめた時代でした。しかし、現在では新自由主義の「自由主義」の要素は失われつつあり、その輝きは見る影もなさそうです。
今、われわれを覆い尽くすのは不安です。あるいは故郷を切り捨て、自由を求めた先で待っていた孤独です。あるいは空間的な制限を開放し、自由をもたらすものとして期待されましたSNSがもたらした虚無です。このようにみると私たちは多かれ少なかれ、安心できる「故郷」を追い求める故郷喪失者なのだとわかります。しかし大事なのは新自由主義が引き起こす分断が幻想であることを理解することなのでしょう。
「不幸のいちばんの原因は〔…〕ここではないどこかへ行きたいという望みなのではないか」──ウィリアム・アトキンズ『帝国の追放者たち』
故郷喪失者であると認識した上で、もう「ここではないどこか」を求めなくてもすむような豊かな土壌をいかに私たちの足元に養いうるか。そして新自由主義的なメリトクラシーに対して文学がいかに解放的に機能するか。ともにイギリス文学研究から学問の道に入られたという共通性がありながら、それぞれの立場から現代社会の問題にアプローチされている河野さんと小川さんの対話から、故郷喪失者たちのこれからについて考えてみたいと思います。みなさんの足元にも文学や芸術の種が播かれる時間になることを願っています。
<プロフィール>
小川公代(おがわ・きみよ)
1972年生まれ。上智大学外国語学部教授。ケンブリッジ大学政治社会学部卒業。グラスゴー大学博士課程修了(Ph.D.)。専門は、ロマン主義文学、および医学史。著書に、『ケアの倫理とエンパワメント』『ケアする惑星』(ともに講談社)、『文学とアダプテーション――ヨーロッパの文化的変容』『文学とアダプテーション2――ヨーロッパの古典を読む』(ともに共編著、春風社)、『ジェイン・オースティン研究の今』(共著、彩流社)、訳書に『エアスイミング』(シャーロット・ジョーンズ著、幻戯書房)、『肥満男子の身体表象』(共訳、サンダー・L・ギルマン著、法政大学出版局)などがある。8月に『世界文学をケアで読み解く』(朝日新聞出版)を刊行。
河野真太郎(こうの・しんたろう)
1974年、山口県生まれ。一橋大学法学部卒業。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。専門はイギリス文学・文化ならびに新自由主義の文化と社会。一橋大学大学院商学研究科准教授などを経て、現在、専修大学国際コミュニケーション学部教授。著書に『〈田舎と都会〉の系譜学――二〇世紀イギリスと「文化」の地図』(ミネルヴァ書房、2013年)、『戦う姫、働く少女』(堀之内出版、2017年)、『新しい声を聞くぼくたち』(講談社、2022年)など、訳書にウェンディ・ブラウン『新自由主義の廃墟で』(人文書院、2022年)、アンジェラ・マクロビー『フェミニズムとレジリエンスの政治』(共訳、青土社、2022年)などがある。7月に『この自由な世界と私たちの帰る場所』(青土社)を刊行、9月には『増補 戦う姫、働く少女』(ちくま文庫)を刊行予定。
【日時】8/25(金)19:30-21:00(延長の可能性あり)
*こちらのイベントは、イベント終了後、アーカイブ視聴が可能となります。
*アーカイブ視聴期間はイベント開催日またはお申し込み日から2ヶ月間となります。
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・開演時間の20分前より開場/受付開始いたします
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【配信参加について】
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【主催・会場】
本と珈琲の店 UNITÉ(東京都三鷹市下連雀4-17-10 SMZビル1F)
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