



「セウォル号時代」を生きる人々にとって切実な主題である「個人が直面する歴史的暴力」の視座から描かれた9篇の小説集。
疎外された者の絶望と孤独を優しく照らし、現代社会に問いかける小品集
私たちは生きるのに精一杯で、誰かの痛みに関心を持つことは難しい。でもその痛みはいつか自分に降りかかるかも知れない。困難な時代に痛みが弱者に集中せずに、分散して和らぎ健やかな社会へと向かうには、「他者」の痛みに寄り添う営みが必要だ。無関心は残酷さにも気付けないが、誰かに救われた記憶は、また誰かを救う。傷ついた記憶すべき人々を忘却から引き戻し共感へと引き寄せる、優しくも力強いこの短編たちが誰かの希望となり、強者に押し込められた孤独から、救う者と救われる者を護り照らす一筋の光になることだろう。
【書誌情報】
出版社:彩流社
発行:2023年4月
版型:四六判上製、288p
【目次】
光の護衛
翻訳のはじまり
モノとの別れ
東の伯の林
散策者の幸福
じゃあね、お姉ちゃん
時間の拒絶
ムンジュ
小さき者たちの歌
解説 彷徨う存在の記憶と光(文学評論家・韓基煜)
作家のことば
訳者あとがき
【著者】チョ・ヘジン
1976年ソウル生まれ。2004年「文芸中央」新人文学賞で登壇。小説集『天使たちの都市』『木曜日に会いましょう』、長編小説『限りなく素敵な夢に』『誰も見たことのない森』『ロ・ギワンに会った』『夏を通り過ぎる』など。シン・ドンヨプ文学賞、文学トンネ若手作家賞、ムヨン文学賞、イ・ヒョソク文学賞など受賞。多くの作品が「他者」に目を向け、疎外された者の痛みに対して傍観するのか共感し連帯するのかを読者に問いかけている。
邦訳に『かけがえのない心』(亜紀書房、2021年)、『天使たちの都市』(新泉社、2022年)がある。
【訳者】金敬淑(きむ・きょんすく)
1972年生まれ。在日三世。ハングル教室講師。2020年、韓国文学翻訳賞翻訳新人賞受賞。
*版元HPより