




文豪で軍医の、歴史上の天才? 「舞姫」って本当は何が書いてあったんだろう? 江戸時代の終わりに生まれ、明治の激動のさなかに勉強して留学し、自由恋愛を経験して、一人称小説を書くとはどういうことだったのか。その時代の感覚に立って、作品や資料を読み解けば、悩んで悩んで自分を探した、鴎外の横顔が見えてくる。
【書誌情報】
出版社:岩波書店 岩波ジュニア新書
発行:2022年12月
版型:新書版、232p
【目次】
はじめに
第一章 鷗外少年の勉強──自分は何を学びたいのだろう?
勉強しなさい! ……でも何を?
鷗外少年の書いた漢字
鷗外という名前
鷗外の手習い
江戸が終わった!
森家の上京
勉強が役に立たない!?
十一歳で東大医学部合格……!?
医学生、鷗外
漢詩文への思い
陸軍入り
第二章 鷗外の恋と「舞姫」の事情──自分の思いは貫けるか?高校現代文の四天王
「舞姫」なんて最悪だ!
鷗外の恋人
「エリス」の実像
結婚をめぐって
エリーゼとの別離、登志子との離婚
現実の体験から「舞姫」へ
自己を見つめる豊太郎
家族に読み聞かせられた「舞姫」
エリーゼへの思い
コラム① 自分を書く小説──「文づかひ」から「舞姫」を考える
第三章 古文と現代文のあいだ──自分の言葉で書くのは難しい!
古文と現代文の接続点
言葉は変化する
江戸後期の文体のいろいろ
明治の言語改革
文語なんて必要か?
言文一致で小説は書けるか
書き言葉と描写の問題
話し言葉を話すのは誰?
言文一致小説の難しさ
「舞姫」の文体ふたたび
新しい文体を探して
一人称小説という新しさ
一人称は書きやすい
「舞姫」の奥ゆき
コラム② 一人称小説の難しさ──夏目漱石「吾輩は猫である」と鷗外の「雁」
第四章 文学者にはなったけど──ジャンルとスタイルの自分探し
森鷗外は小説家か?
文学者鷗外の自己認識
多種多様だった「文学」
鷗外の立ち位置
翻訳家、鷗外
「ミニヨンの歌」
「オフエリヤの歌」
評論家、鷗外
「没理想論争」
西洋思潮の紹介者
匿名合評「三人冗語」
樋口一葉「たけくらべ」の絶讃
明治文学者としての自分探し
第五章 引き裂かれる鷗外──分裂してしまう自分
明治二十年代の森鷗外
鷗外や露伴たちの飲み会
小倉への「左遷」
あらためて勉強をはじめる
二度目の結婚
妻に厳しい遺言
母と妻との狭間で
家庭内の問題を描いた「半日」
陸軍での栄達と文壇への復帰
派閥を超越した存在として
二重の自分
引き裂かれる鷗外
大逆事件と「沈黙の塔」
暴行する日本兵と「鼠坂」
狭間に立つことの苦闘
第六章 自己更新を続ける文学者──自分探しのゆくえ
江戸と明治
明治天皇の崩御と乃木大将の殉死
「興津弥五右衛門の遺書」
鷗外の突きあたった問題
「歴史そのままと歴史離れ」
ふたたび文学的想像力の問題
「渋江抽斎」
自己更新を続ける文学者
軍医を辞して
最後の公務
家庭状況と「蛇」
しげの立場の難しさ
理想的な父を向こうに
鷗外の遺言
最後の自分探し
おわりに
森鷗外年譜
主要参考文献
【著者】出口智之(デグチ トモユキ)
1981年、愛知県生まれ。2003年、東京大学文学部卒業。2008年、同大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員DC2・PDを経て、2010年東海大学文学部講師、2014年同准教授、2018年より東京大学大学院総合文化研究科准教授。専門は明治文学と美術で、近年は文学と口絵・挿絵との関係を考察する「画文学」に取り組む。
著書に『幸田露伴と根岸党の文人たち』(教育評論社)、『幸田露伴の文学空間』(青舎)、『画文学への招待』(Humanities Center Booklet Vol. 12)、『明治文学の彩り』(責任編集,春陽堂書店)ほか。